人間の生々しさをこんなにも躊躇なく描ける脚本家の心というのは、どんな強さと脆さで出来ているのか。
宙組公演『FLY WITH ME』初日(おめでとうございます!)に、わたしは宝塚を辞められた上田久美子先生の初外部作品 『バイオーム』を観劇させていただいたのですが、 数時間経った今でも、心の中がずっしり重たくて、息苦しさすらある現状です。
これが宝塚を退団した上田久美子先生……と、ひしひしその重みを感じました。 古典的ではあるのに、良い意味で、本当に重たく深くずっしりした作品に仕上がっています。
朗読劇ときいていたのですが、 わたしの知っている朗読劇とは全くの別物でした。
そして、 上田久美子先生は宝塚を退団されてもなお、芯の部分はわたしたちの知っている上田久美子先生そのものでした。人間の欲や性別ポジションによる呪詛など、内容は深く深く重たいのに、なぜか言葉の隅々に美しさを感じてしまう麻薬みたいな狂気性とロマンチシズム。
宝塚を観劇する人は事前に情報をたくさん入れるけれど、本作は情報なしの方が良いという上田先生のお言葉を耳にしましたが、 本当にその通りだと思います。 何も知らずにこのストレートプレイを浴びて、存分に心を突き動かされていただきたいです。
※『FLYWITHME』の配信と日程が被っているのですが、 『バイオーム』の配信はアーカイブ視聴期間があります。
※配信日は6月11日 (土) 17:00 なのですが、6/14 (火) 23:59まで視聴可能です。
セリフを一言も聞き逃したくないという感情を沸き立たせる上田久美子先生の手腕に、改めて脱帽いたしました。 こんな素晴らしい演出家が宝塚の座付だったことを誇りに思った方がいいな….…と感じさせるほど、セリフのひとつひとつに身体の中の細胞をじわじわ蝕まれました。
スミレコードという枷の外れた上田久美子先生は、もはや清々しいほど人間の内側に対して容赦がなかったんですけれど、宝塚でも感じていた 「上田久美子先生らしさ」 は相変わらずで、観劇後の余韻が宝塚のときの上田久美子先生そのもので、とても感動いたしました。
わたしは今日、わざわざ生傷を彫られに行ったのだ、という表現をしたくなるような、不快で、残酷で、地獄で、 美しいものをごたごたに煮詰められた、 言葉に出来ないほど素晴らしい作品でした。
一色さんの演出はもちろんのこと、巧みすぎる役者さんたちの狂気的な、えげつないほどの芝居力とともに、宝塚から解き放たれた上田久美子先生の脚本を、皆さんも体感して欲しいな……と、 胃のあたりをさすりながら言いたいです。
皆さんの解釈をお腹いっぱいになるまで聞きたいですし、調子の悪い時には絶対にウエクミ先生の外部作品は観ない方がいいなと思いました。
演者の皆様の素晴らしすぎる演技力含め、 心と身体が暫く『バイオーム』の余韻から抜け出せそうにないです。
美しくないのに美しいこの作品を皮切りに、 上田久美子先生の新たな作品をこれからもたくさん浴び続けたいと思いました。 また、上田久美子先生の作品を浴びれる「今」という時代に生きることが出来てうれしいです。
とても心に残る作品になったので、もしよろしければ(アーカイブ配信もありますし)『バイオーム』の配信での視聴を、よろしくお願いいたします。
わたしも配信で再び、美しき地獄と再会しようと思います……。