ワッフルと宝塚のブログ

宝塚がある世界に乾杯

月組『グレート・ギャツビー』キャスト別感想①

 本日から、素敵すぎる月組公演『グレート・ギャツビー』のキャスト別感想を記していきたい所存です。


 今回はオーソドックスに、主な配役の 「月城かなとさん、海乃美月さん、鳳月杏さん、 風間柚乃さん」 の4名について記していきたいと思います。


 わたしは個人的に、この4人のことを 「どんな役も任せられるお芝居の匠」 だと思っているのですが、本作でも4人の実力が遺憾なく発揮されており、大変見応えがありました。

 この4人が同じ組に集結している令和という時代に乾杯したいです。



 それでは順当に、主演のギャツビーを演じた月城かなとさんから感想を記していきたいと思います。



 好きな女の対岸に家を建て、 彼女と再会したいがために夜な夜な招待状のいらないパーティーを開き、相手の同意なく彼女の住む家をじっと眺めては、自分の家にはその女の写真を飾っている。

 上記だけでも、ギャツビーは間違いなく 「ヤバい男」 であり、 「一途」 なんて綺麗な言葉を使っていいわけないのが現代の常識なのですが。


 あの「顔」と「財力」 があれば、 「デイジーも引かない」のだということを、まずは美しさと格好良すぎるスーツの装いで証明してみせる月城ギャツビー。

 我々観客も、 (ギャツビーはヤバいけれど月城さんなら許される……) と感じてしまう時点でビジュアルでの説得力がまず凄いです。


 さらには、デイジーに 「見合う男」 になりたくて、がむしゃらに頑張ってきたギャツビーが、 「お金持ちになったことをアピールするため」 に高級なシャツを満面の笑みで放り投げていく姿が少し面白く、そして(かわいい……)と我々に思わせる月城ギャツビーは、顔だけではなく人間性に魅力があると思わせてくださいます。



 月城さんのギャツビーは、幼いころの自分を「持たざる者」だと思っていて、何者かになりたくて虚構を積み重ね、 デイジーと出会い、さらに虚構を積み重ね、 執念と情熱と虚しさとロマンチシズムと品格と、そしてそれを抑え込む理性と、たまにちらちら覗く狂気性をごった煮にした、 最高のギャツビーだな、と思いました。

 想像よりはるかに格好良く、そして、想像の何億倍も素晴らしかったです。



 具体的に何が素晴らしいかと言えば、「格好いい」 という点以外で、月城ギャツビーに対して、「観客皆が同じ感想にならないだろうな」 と思わせるところが本当に凄いと思います。


 月城ギャツビーはとある観客にとっては 「純粋な男」であり、違う観客にとっては「気持ちの悪い男」であり、さらに別の観客にとっては「報われてほしかった」 と思わせる男であり、多くの多様な感想をもたらすと思います。


 これはまさに「文学作品」の舞台化における大成功の事例と言って良いのではないでしょうか。



 お芝居の良さはもちろんのこと、「朝日の昇る前に」の歌い分けも素晴らしく、歌声自体が素晴らしく、そしてスーツの着こなしが見事で、本当にグレートなギャツビーでした。 (個人的にはコートを肩掛けしているときが一番好みでした)


 目で語る演技が本当に天下一品なので、近い席の方も、あの大きな瞳をオペラグラスで一度、覗いてみて頂けたら幸いです。






 海乃さんは、宝塚のヒロインではないと散々言われてきたデイジーを演じます。


 5年前にギャツビーと恋に落ちたデイジーは、ギャツビーがいなくなった後、「バカな女の子でいる方がいいのだ」と自らに言い聞かせ、 トム (鳳月さん) と結婚し、子どもを産む人妻です。


 5年ギャツビーを待たなかったロマンの無さと、金持ちの男と結婚したにも関わらず、その男にも浮気され、なおかつ最後の結末によって、「デイジーは最低」と言われがちな難役に挑んだわけなのですが。


 5年前の可憐なデイジー、子を持つ母であるデイジー、 トムの浮気を疑う妻であるデイジー
 この3段活用のような役の違いが難しいはずなのに、その変化を意図的に操れる海乃さんの演技力が素晴らしいです。

 また、ポスターより写真より、 舞台上を動く実物の海乃さんはまさに 「君は薔薇より美しい」でした。



 ギャツビーがひと目で恋に落ちた海乃さんが本当に可愛らしくて、「存在が間違いなくプリンセス」なんですよね。
 こんな女の子を前にしたら、ギャツビーが 「王子様になりたい」と思うのも納得だと思いました。


 その後、家柄の問題でギャツビーと別れなければいけないデイジーの、「女の子はバカな方がいい」 ソングの迫力は圧巻の一言です。

 当時の女の子は、 現代と比べても更に、 「信じられないほど生きにくい人生」を強いられます。

 だけれど、そんな中でも幸せになるために「バカな女の子になってやる」 デイジーの、やっつけにも似た爆発しそうな感情があふれ出ていて、個人的には感情が一番揺さぶられるシーンであり、大好きな歌になりました。


 嫌な役、ではあるのかもしれないのですが、それを芯からわたしたちに浴びせる海乃さん、本当に素晴らしく、そして美しかったです。





 鳳月さんはデイジーの夫であるアメリカ貴族のトムを演じています。

 アメリカの貴族の彼は、ありとあらゆるものを「見下すクセ」のある男であり、それは 「女」に対しても如実にあらわれています。
 「見下すクセ」のあるトムは、「女を雑に扱う」ことに躊躇がないので、 車のように女を乗り換えます。


 それゆえ、トムは 「最悪の男」 なのですが、 鳳月さんが息をするのと同じくらい当たり前に浮気をしても、「品の良さ」と「スマートさ」によって、 原作のトムと比べたらそこまで 「クズ加減」が目立たない印象を受けました。

 これこそ 【THE宝塚版のトム】 だな、と大きな拍手をしたかったです。


 同じ貴族同士の友人など、 トムに近しい人は、 トムのことが好きなんだろうな、と思わせるのにも納得がいく 「爽やかな一面」や「ノリの良さ」も持っていて、魅力的なトムを演じておられました。



 また、鳳月さんは普段、 娘役さんを相手にとてもやさしく踊られる方なのですが、今回はトムとしてであり、 相手が愛人のマートル(天紫珠李さん)ということで、「やわらさのないタンゴ」を踊られている姿が印象的でした。

 ギャツビーやニックより相手を雑っぽく扱いつつも、肌を通わせた男女のタンゴの雰囲気が醸し出されていて、 踊り方ひとつ、「マートルを相手にしているニック」なところに痺れました。


 個人的には、アメリカ貴族を歌い上げる爽やかな曲とは反対の、トムのクズっぽい歌があっても良かったのにな〜と思いました。そのくらい鳳月さんの歌声は絶品だと、歌唱指導を聴いた際に改めて思いました。






 風間さんはギャツビーの隣に引っ越してくる証券会社のサラリーマン、ニックを演じています。


 デイジーの又イトコということで、 出生も恥じることはなく、貴族には馬鹿にされるような月給であることにも引け目を感じない、まさに 「金持ちと自分の差を理解している普通の男」なわけです。
 本作の中では一番 「普通」 の価値観を持っている男だと思います。


 なにかとクセの強い役を演じては、そのクセの強さを見事に表現してきた風間さんは、やはり「普通の役」でも上手いんですよね。

 いろんな現象に対して「普通」のリアクションを、 表情だけで静かに見せてくれるので、真ん中ではなくついニックのリアクションが見たくなるほどには 「普通」の感覚を表現するのが上手でした。

 ちょっとしたシーンでの言い方が上手で、 クスッと笑かせてくれる技術はもはや「匠」としか言いようがないと思います。


 また、パーティーに慣れていないから、周りより少し遅れて踊っているシーンも、悪目立ちするわけでなく、「パーティーに慣れていない普通の男」で、あっぱれでした。



 劇中でたびたび、 そして最後のジョーダン (彩みちるさん) とのシーンから個人的に感じるところなのですが、

「誰からも激しく嫌われるわけではなく、誰からもなんとなく好かれるだろうニック」 は、 「誰も激しくは愛さないだろうし、誰からも激しく愛されることはないのだろう」という「まさに普通の人生」 を感じさせました。


  このギャツビーというクセのある人物ばかりの物語で、なにもかも 「普通」 な男を、誰の邪魔をせず、かと言って浮くこともなく演じる風間さんは、やっぱりすごい男役だなと改めて思います。




 4人へのあふれ出る感想を出来るだけコンパクトに記したのですが、 本当に素晴らしいタカラジェンヌであり素晴らし役者だな、と。 ますます4人のファンになりましたし、この4人を「どんな役も任せられるお芝居の匠」 だと思い続けていいな、の気持ちが強くなる一方でした。


 また、こんな素敵な4人に加え、 まだまだ話したい素晴らしきキャストメンバーがたくさんいるので、また後日、 キャスト別感想②を記したいと思います。

 この公演の素晴らしさが、拙い文章ではありますが、少しでも伝えられたら嬉しいです。




 感染拡大に歯止めがかからず、 舞台の幕が無事に開くのか、不安になる日々が続いていますが、 この、余韻残る極上のミュージカルが、 どうかこれ以上中止になりませんように。

 そして、ひとりでも多くの方があの赤い座席に座り、 ギャツビーの世界観に入り込むことが出来ることを心の底より願っています。




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