ワッフルと宝塚のブログ

宝塚がある世界に乾杯

『グレート・ギャツビー』キャスト別感想②

 中止に打ちひしがれてはいますが、この素晴らしき公演を記しておきたく、月組公演『グレート・ギャツビー』のキャスト別感想②です。


 今回は、ポスターメンバー以外での重要な役どころ4人、光月るうさん、彩みちるさん、天紫珠李さん、そして英真なおきさんについての感想を記そうと思います。






 マートル (天紫珠李さん)の夫であり、 自動車修理工を職業とする車好きなウィルソンを光月るうさんが演じます。


 今回のギャツビーでは、ウィルソンの出番が以前より削られています。 ですが、 光月ウィルソンの圧倒的演技力によって、 前後の物語を観客が勝手に補完できてしまいます。

 既にスチールの時点で、人生に楽しさを見出せない虚ろな雰囲気を醸し出していましたが、舞台でも百億点満点で、素晴らしいウィルソンを演じていました。



 妻よりはるかに年上で、だけれど言い返すことのできない気の弱い旦那という印象は基より、「この人と二人きりで暮らしていたら、息が詰まって苦しいだろうな」という、気持ちの悪い狂気性を感じさせました。

 とても可哀想な男なのですが、妻が 「夫選びを間違えた」と歌いたくなるような要素を、立ち姿や喋り方によって表現しており、その圧倒的演技力にて、「マートルがトムに夢中になる」 「マートルがトムに助けを求めてしまう」 という説得力の裏付けをしてくださっています。


 マートルに悲劇が起き、ウィルソンの心に火が付いてしまうのですが、内包されていた狂気性が剥き出しになるような迫力があり、その感情をのせて歌唱されるシーンは手に汗握りました。


 さすが月組の組長だと唸らずにはいられない、不幸を一身に背負うような、うだつの上がらない中にも滲む狂気性が見事でした。






 プロゴルファーであり、デイジー (海乃美月さん) の友人であるジョーダンを彩みちるさんが演じられます。


 ジョーダンは、1920年代のアメリカでは珍しく、自分で自分を養う、謂わば自立した女性です。
 男に媚びるわけではなく、 「自分が気になった異性には気になったときに近づく」余裕があります。


 はっきりした喋り方や、余裕のある動き方など、誰にも頼らなくても平気な「自分への自信」が見え隠れします。

 大人な女性役ですが、 喋り方や仕草には「若さや男選びに執着しないさっぱりとした印象」があり、お化粧もすごく綺麗で、年上の良い女感が素晴らしかったです。



 また、自立しているからこそなのか、登場する女性の中でも特に「恋愛というものに冷めている」印象を受けました。
 恋愛で身を滅ぼさないし、恋愛というものに対して冷めているので、「自分の人生を犠牲にしないだろうな」とわたしたちに感じさせる淡々とした存在。

 だからこそ、最後のニックとのシーンが、意外でもなんでもなく「仕事で遠くに行くなら仕方ないよね」と、思わせてくださいます。


 ゴルフのシーンでは少し笑わせてくださるところもあり、ニックが惹かれるのも分かる素敵な女性像を表現されていました。








 ウィルソン(光月るうさん)の妻であり、トム(鳳月杏さん)の愛人であるマートルを演じたのは天紫珠李さんです。

 天紫マートル、吹っ切れていてとっても良かったです。


 夫選びを間違えた、とはっきり言っちゃう、「自分の夢物語の欲に忠実」な女。
 奥さんがいる金持ちなトムのことを自分の「王子様」と表現し、 本気で彼を王子様だと信じている、客観的に見たら哀れな女を見事に熱演されていました。


 トムからしたら、馬鹿で都合の良い女であり、雑に扱ってもいい女ですし、そういう扱いを受けています。

 だけれど、どれだけ雑に扱われても 「トムが欲しい。 お金持ちになりたい。 高級な車に乗って高いドレスを着ていたい」という、「今の階級から抜け出したい感情」が痛々しく表現されていました。

 そして、そういう刹那的で衝動的で、後先考えないところが少しだけ、トムにとっては可愛かったんだろうなと思わせてくださいます。


 『川霧の橋』での、お組ちゃんの擦れた演技が素晴らしかったのですが、 天紫さんは「可愛らしいだけの娘役では演じるのが難しい役」 をこなすのが上手いなあと改めて思いました。


 ドラム缶に座って花道をせり上がってきてから、同意を求めるように客席に話しかけては歌い出す一連の流れが、開けっ広げで格好良くて華やかで、クセになるほど大好きです。



 また、マートルの友人役についても少し話したいのですが、
 殴られても約束を取り付けようとするマートルに、フラッパーな友人たちがさすがに引いているシーンがあります。


 しかし、「マートルに対して引いてはいるものの、マートルから離れていくほどではない」 この絶妙な表情が皆さん(麗さん、清華さん、桃歌さん、妃純さん、天愛さん)本当に最高でした。

 こういうさりげないお芝居、本当に皆さん素敵で、ひとりひとりの演技を確認したくなるので目が足りません。本当にすごい!







 ギャツビーの父であるヘンリー・C・ギャッツと、冒頭のニックの運転手という二役を英真なおきさんが演じられています。


 運転手として最初の場面と、ヘンリーとしての最後の場面。出番こそ多くはないものの、確かな演技力で、物語の世界を開かせてくださいます。


 特に、ギャツビーの父であるヘンリー役では、それまで登場していなかったにも関わらず、『グレート・ギャツビー』 という物語の根本を抱きしめるような存在です。


 最後のセリフ回しが、まあ見事で。 ヘンリーがギャツビーに向ける言葉は、あたたかくて、やさしくて、 自虐的で、 だけれど息子のことがかわいくてかわいくて仕方ないという感情であふれていました。

 英真さんヘンリーの、 決して恵まれなかっただろう人生が見えてくるところ。そして、息子をいとしいと思っている心が伝わってきて、 めちゃくちゃ泣きそうになります。


 本当に素晴らしいですし、 英真さんが元気に舞台に戻ってきてくださったことが、なにより嬉しかったです。






 当たり前のようにキャスト別感想が②でも収まりきらなかったので、後日、 ③も記したいと思います。

 物語の結末は決して報われないのに、思い出すだけで心地よい月組さんのお芝居が、本当に大好きだと心から思いました。


 現在、残念ながら公演の中止が発表されていますが、どうか、8月4日から幕が開くこと。そして、その日から千秋楽まで、この素晴らしき舞台の幕が開き続けますように。



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