ワッフルと宝塚のブログ

宝塚がある世界に乾杯

花組『フィレンツェに燃える』『Fashionable Empire』を観て

 先日、花組全国ツアー『フィレンツェに燃える』および『Fashionable Empire』を梅田芸術劇場にて観劇させていただきました。


 フィレンツェは初演から47年を経ての初めての再演とのことで、物語のあらすじは知っていても、実際に拝見するのは初めての作品でした。


 とても文学的な作品です。派手さやスピード感がない代わりに、静かに噛みしめるようなストーリー。柚香さん演じるアントニオが貴族の象徴かつ受身体質の主人公のため、物語がガツガツしていません。昨今ウケるタイプの作品ではないのですが、わたしは幻想的なこの物語が大好きだなと感じました。



 台詞や歌詞によって物語が流れていく、美しい言葉で紡がれる物語のため、ハプニングやイベントが起きるというより、心の中の動きが物語の軸になっています。

 だからこそ、情報を詰め込まれることに慣れている現代のわたしたちには、余白が多すぎるあまりつまらないと感じることも間違ってはいないと思うんですね。


 再演ということもあり、慎重になったとは思うのですが、この物語は先ほども述べたように「台詞や歌詞」といった「言葉」で紡がれている作品です。 なので、「大事な言葉を伝えている時の演出」 がとても大切だと思うのですが、本作の演出はまさしく「昔の宝塚を再現」したかのような平面的な演出でした。


 初演と比べることは出来ないため、変更された演出(ほぼ変更なしらしいのですが)などは正確に分からないのですが、「脚本の美しさはそのままで、多面的な演出があったら、もっとたくさんの人に受け入れられやすいだろうな」 という感想を持ちました。


 今回は大野拓史先生が演出をされていますが、再演をよく担当される中村暁先生と同じく、昔に忠実タイプの演出なんだなあ……と。演出による手助けが少なかったために、本作の解釈が難しいと捉えられた方は多いのではないだろうかと思い、そのあたりが惜しいと感じられました。(今回の演出が好きな方、本当に申し訳ありません)


 演出で脚本を補うのが一等上手いのは、宝塚を退団された上田久美子先生だと思っているので、「上田先生ならこの物語をどんなふうに補完したのだろう」という、 叶わぬ夢に思いを馳せてしまいました。

 


 さて、キャストについてなのですが、それぞれが、 今まであまり通ってこなかった役柄を与えられたのだと思いました。 柚香さん、星風さん、水美さん、 星空さん。 この4人で物語の本筋が進んでいきます。


 柚香さんと水美さんは性格の異なる兄と弟を演じられました。

 このふたりの兄弟愛や身分による恋模様など、古典的な作品にありがちな題材なのですが、今回の収穫は 「わたしは柚香さんの静をメインにする抑えた演技が好きなんだなあ」 という気づきと 「水美さんは目で語る色気にあふれた男役さんなんだなあ」という基本を再認識できたことです。


 「あふれだす感情をおさえられないタイプ」の若々しい役が回ってくることの多かった柚香さんですが、今回は「思慮深き紳士タイプ」のお役でした。

 公爵家の長男で生まれながらの貴族であるアントニオには優しさが滲むけれど、生まれながらに与えられ続けてきた男はどこまでも受動的で能動的になり得ないし、貴族という枠に縛られています。


 どこまでも正しい貴族で正しい長男であろうとするアントニオが主人公のため、この物語は「不変的」でもあり、常に変化を求める観客をこの役柄で惹き込むのは大変難しいと思うのですが、柚香さんの「この人はどこまでも貴族なのだ」と思わせる佇まいは個人的にとても魅力的に感じました。


 柚香さんって、現代チックな話もいいんですけれど、幻想的な男役さんだと思っているので、こういう古典的な物語を演じてくださるのが本当に嬉しかったです。



 正反対というより兄弟を対比させるため、水美さん演じるレオナルドは熱くてやんちゃで奔放で、そして能動的な男です。

 だけれど「兄を筆頭に家族想い」だからこそ、そこに起因する感情で動く、まさに物語を動かしてくれるタイプの役柄なのですが、この憎めない役柄が水美さんにとてもよく似合っていました。星風パメラに迫るところなど、直視するのが恥ずかしくなるほど格好良かったです。



 そして、星風さんと星空さん。 まあなんて素敵な娘役がふたり揃ってしまったのでしょうかと心臓が高鳴るほどには、「焦がれていた花組の娘役」 に出会えた気分になりました。

 わたしは 『CASANOVA』 で退団された花組上級生の娘役さんたちが大好きで大好きでたまらなかったのですが、彼女たちを観ていたときのときめきが、今回の観劇では胸に宿るようでした。



 47年ぶりの再演に賛否があるようですが、わたしの目には柚香アントニオと星風パメラが出会う何気ないシーンがとてもロマンチックに見えて、これだから柴田先生の作品はやめられないんだよなあの気持ちでいっぱいになりました。

 個人的には、愛の二面性よりも、とある貴族の長男に生まれたひとりの男の物語として受け取ったのですが、共感の有無など関係なく面白かったです。






 『Fashionable Empire』は全国ツアー用に、観客参加型グッズとしてミニ王冠が発売されました。


 大劇場ではなかったグッズの為、 プロローグの際、(いつ使うのだろう)と身構えてしまったのか周囲で拍手が減っていくのが感じ取れて、(わたしはやっぱりグッズなし派だ……) の気持ちが大きくなりました。

 ショーで販売されるグッズは、盛り上がるには盛り上がるんですけれど、拍手もそつなくこなせる腕に着けるグッズとかの方が有難いな〜と感じました。


 しかしながら実物のミニ王冠(全然ミニじゃない)めちゃくちゃ可愛かったです。 かなり頑丈なので、隣の人に絶対当てないようにしなければと心に誓いました。


 ミニ王冠活躍の場はほぼないのですが(プロローグのみ)、柚香さんが 「みなさまご一緒に〜」 と声をかけてくださったので、 振付の入りは分かりやすかったです。

 ですが、実際やってみると振付か難しくて、(あれ? 練習したのに全然できないな???)と自分の能力のなさに絶望しそうになったのですが、「回して〜柚香さん〜」のところはぴったりあわせられたので良かったです。


 花組の皆様の楽しそうな笑顔がそりゃもう眩しくて眩しくて眩しかったです。 ショーではお芝居の分、大阪をふんだんにとりいれてくださりありがとうございました。(わたしは兵庫の人間ですが、なんだかとても嬉しかったです)


 また、今回の全ツショーでかなり嬉しかったことは、大好きな106期の娘役さんである湖春ひめ花さんが大活躍してくださっていたことです。


 106期は月組公演『WELCOME TO TAKARAZUKA -雪と月と花と-』 および『ピガール狂騒曲』が初舞台だったのですが、湖春さんはピガールのカンカンの踊りの場面にもご出演され、風間柚乃さん演じるボリスのお世話をしてくださっていたときから本当に大好きで大好きで。


 これからますます活躍されるのが楽しみですし、エトワールを担われた咲乃深音さんも大活躍されていて、花組の素敵な下級生娘役たちがこれからどんどん花開いていくんだなあ〜と思うと、これからの花組がますます楽しみで楽しみで仕方ありません。



 フィレンツェの方は、だいぶ余白を噛みしめてしまい、言いたいことの10分の1もうまく言葉に出来ませんでした。ですが、今の花組さんはスタイリッシュで垢抜けている現代的な雰囲気だからこそ、こういう古典的な物語で新しい魅力に出会えるのが貴重だし有難いなあと感じました。


 ショーについては、「これから全ツに参加される方、ミニ王冠の振りの難易度は意外に高い」ということを真剣に伝えたいな……と思いました。振り付けはうまくいかなかったのですが、花組の皆様が嬉しそうだからわたしも嬉しかったです。



 このご時世、全国ツアーはリスクもとても高いのですが、普段なかなか宝塚に触れ合えない方々にとって、全国ツアーはとても貴重な公演です。どうか、花組さんの魅力あふれる『フィレンツェに燃える』および『Fashionable Empire』が、千秋楽まで完走できますことを心の底より願っています。



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