ワッフルと宝塚のブログ

宝塚がある世界に乾杯

雪組『蒼穹の昴』を観て2番手朝美さんについて思うこと


 100年以上の歴史を持つ宝塚は、これまでたくさんの素晴らしい作品を上演してきました。その素晴らしき作品たちの中で、2番手が演じる役というのは「美味しい役」 と言われる役柄が多いです。


 個人的には、2番手時代に更なる魅力を引き出す役に当たり、ファンを増やしていく流れは、スターシステムを導入している宝塚では欠かせない手順だと思っています。


 過去、さまざまに魅力的な2番手の役がありましたが、今まで観てきた宝塚の作品の中で、『蒼穹の昴』ほど「二番手が美味しい役」なことがあったでしょうか。

 否、他の誰でもなく 「朝美絢さんが演じるからこそ」蒼穹の昴の二番手役は美味しく感じる。

  そう思わせてくださるほど、 寝ても覚めても朝美さん春児に想いを馳せてしまっているので、今回特筆させていただきたいです。



 まずはじめに、注釈をつけたいのですが、今回の美味しい二番手に関しては、特別出番が多いという意味ではありません。


 そもそも、語るのに最低3日はかかる蒼穹の昴という壮大で長い物語を、宝塚版では3時間ほどに凝縮させています。

 更には、原作では主人公ではない彩風さん演じる梁文秀をしっかりと主人公に変更させています。それに応じるように、梁文秀サイドに焦点を当て、なおかつ登場人物ひとりひとりの濃いエピソードと絡まる人間関係で構築されていくので、春児の主人公らしい原作エピソードは尽くカットされています。


 実際、「文秀をメインにすると春児と西太后って出番がこれだけなんだ……」と原作ファンとしては衝撃をくらってしまうほどには名場面たちがカットされてしまっているわけなのですが。


 しかしながら、原作より如実に出番が削られても、春児という人物像は原作の主人公そのままです。


 時代の流れに翻弄された逆境まみれの人生。 だけどそれを、持ち前の善性と純真さで必死で跳ね返しては這い上がっていく様は、物語の中でも周囲に愛されていくように、観客もまた春児を好きになるのが必然かのように心を掴まれていきます。


 原作からは信じられないほどエピソードは削られているものの、朝美さんの春児は、まさしく小説の中から飛び出して来たかのような説得力を持つ、「思い描いていた春児そのもの」であり、初見時は本当にびっくりしましたし、強く胸打たれるほど感動いたしました。



 全組観劇と言いつつ、 月組観劇の回数が一番多い人間なので、 朝美さんが月組から雪組に組替えが決まったとき、本当にショックで寂しくて落ち込んでいたわけなのですが。 朝美さんは雪組に組替えされてからの方が目立つ役を与えられ輝きを増し、FNS出演を機により一層人気が大爆発されました。


 月組では3期下の暁さんより目立つ役が与えられなかったこともあり、組替えは寂しいけれど、やっぱりご本人にとってはプラスになることが大きいなあと改めて思わせてくださいました。


 雪組にきて、 朝美さんは魅力的な役柄が多かったですが、中でも今回の春児役は、最下級生の頃から考えても、「朝美さんには絶好のお役」だと言えると思います。


 朝美さんは、 どれだけ学年が上がっても誰にも負けないほど 「美少年の役」が似合います。 それも、『ポーの一族』で明日美りおさんが演じたエドガーのような幻想的な美少年という役柄よりも、地に足付いた泥臭さの中にある美しい少年が一等似合うと思っています。



 どれだけぼろぼろでも、環境が変化していっても、瞳の輝きや根底に宿っている真っ直ぐな魂を持つ春児の笑顔。ここまでこられたのは己の力だけではないと痛感している佇まい、 子どものように泣きじゃくる姿。

 とても綺麗でとても美しいのに、からだの内側にはこれまで走り続けてきた泥臭いほどの努力が詰まっているのが、朝美さんの表情、声、立ち姿、 はたまた歩き方から伝わってきます。



 周囲に愛され出世していく、ドラマティックな人生ではありますが、 希望の光のような春児の存在は、今の朝美さんだからこそ表現できるのではないかと。 そう信じて疑わない、それほど朝美さんにぴったりで、朝美さんが演じるからこそ、二番手としてとても美味しい役に仕上がっていると感じられました。


 月組の頃では考えられない大きな役で、しっかりと舞台に立つ朝美さんを拝見すると、いつも泣き出すほど感動してしまうのですが、今回は春児の涙と共に、永遠に泣き続けてしまうほどには大感動しましたし、改めて朝美絢さんという男役を大好きになりました。


 そのキラキラとした顔立ちから、FNS出演時にSNSでバズったことから、朝美さんは「顔で恋に落とす」タイプのジェンヌさんだということを否定はしません。少年のような美しさは、朝美さんの大きな武器であることに変わりはないからです。


 しかしながら、本作にて。朝美さんを通り越して春児が好きだと。朝美さんの演じる春児のことが大好きだと。朝美さんという唯一無二の男役さんが大好きだと。「顔が好きだけじゃない。自分は朝美絢さんという男役が好きなのだ」と。

 改めてそう思われる方がきっとたくさんいらっしゃるだろう素晴らしい役が、こんなにも大熱演できる素敵な役が二番手の「今」回ってきたこと。本当に本当に、心の底から嬉しく感じました。




 蒼穹の昴に関しては原作ファンということもあり、 個人的に主人公の春児に対する思い入れが強すぎるため、今回は朝美さんにフューチャーいたしましたが、彩風さん演じる梁文秀をはじめ、朝月さん演じる李玲玲、和希そらさん演じる順桂に専科の皆さま。全員が全員、本当に唸るような素晴らしさで物語に登場してくださっています。



 今の雪組のかたちを拝見できるのは本作が最後ですが、 朝月さん最後の作品にしては出番が少ないことにはモヤモヤしてしまいますが、ですが、それを差し引いても、今の大好きな雪組を大好きな蒼穹の昴という作品で拝見できますこと、 本当に幸せです。



 まだまだ観劇させていただくのですが、 こんなにも素敵な舞台をつくり上げてくださっていること、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。


 先日、大劇場の新人公演が無事上演されましたが、このまま新人公演含む雪組公演『蒼穹の昴』が東西完走出来ますことを、退団者の皆様が大階段を悔いなく降りられますことを心の底より願っています。



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