ワッフルと宝塚のブログ

宝塚がある世界に乾杯

友人が宝塚にドハマりした話


 昨日は、宝塚音楽学校、110期生の合格発表でした。計り知れない努力をされた受験生であっても、全員が報われることはない狭き門です。しかし、全ての受験生の努力の日々がいつか、音楽学校ではなくとも報われる日が来ますように。

 合格された110期生の方々、未来のタカラジェンヌとして舞台越しに会える日を心待ちにしております。



 そして、新しくタカラジェンヌになる人がいれば、新しく宝塚ファンになる人もいるわけです。
 実は1月の半ば、めでたくわたしの友人が宝塚にドハマり致しまして。今回は、そんな粗末な話をさせていただこうと思います。






    ✳︎





 私の友人が宝塚にドハマりした。
 彼女は宝塚のたの字も知らないほどには、宝塚に関して無知だった。しかし、わたしが「今回の月組も最高でさ〜。二つの箱に別れてもどっちも最高って凄くない?」などと、めげずに一方的に月組の感想を語れば、分からないなりにいつも相槌を打ってくれる心優しき友だった。


 そして彼女は、「わたしも人生で一度は宝塚を拝んでおかないと」と、よく言ってくれていた。わたしはそれを心優しき社交辞令だと思っていた。


 しかし、2021年ゴールデンウィークの頃合い
「『今夜、ロマンス劇場で』がれいこさんとうみちゃんのお披露目公演なんだよ」
 と、ひとりはしゃいでいたときに、(※もちろん彼女はれいこさんのこともうみちゃんのことも知らない)友人は言った。


「もしもチケットが取れたら、わたしを誘ってほしい」


 びっくりした。もしかしてロマ劇の映画ファンなのかと訊いてみるも、「CMでしか知らない」との答えだった。友人は心優しいのだが、とてもクールで、思考が読めないところがある。ので、あまり深追いはせず、「チケットは取るから任せといて」と答えておいた。(これがとんでもないチケ難公演になるとはそのときのわたしは知らなかった)

(本当は桜嵐記とドリチェを誘っても良かったのだが、たまさく退団に毎公演泣いている自分の未来が見えていたのでお披露目の方を選んだ)







『ロマ劇/FS!』はチケ難公演ではあったものの、長年のヅガオタ手腕によりチケットをゲットしたわたしは、早速ムラに友人を連れて行った。
 何十人の月組生を一気に教えても混乱するはずなので、れいこさんとうみちゃんとちなつさんとありちゃんとおだちんの主要五人(本当はみちるちゃんたちも教えたかった)を車の中で教えておいた。
 助手席の彼女にプログラムを渡すと、それを開いた彼女は受験前の高校生のように熟読し始めた。隅から隅まで写真と文字を追う姿こそ、ヅカオタの逸材であることに、そのときのわたしはまだ気が付くことが出来ないでいた。




 劇場につくと、「このパンフレットを自分用に買いたい」と友人が言うので、まずはキャトルに連れて行った。アルコール消毒をしながら彼女は、「写真に囲まれている……」と新鮮な感想を告けてきた。キャトルは写真があってなんぼなので、そんな当たり前の感想に対し、わたしは気の利いた返事がちっともできなかった。面白い人間にはなかなかなれないのに友人でいてくれることに感謝である。

 友人は目をきょろきょろ動かしつつ取り敢えずプログラムだけを購入していた。(わたしはその隙にどっさりと舞台写真を買っておいた)
 


 幕が開く前、お喋りする人も多い中、友人は静かにプログラムを読んでいた。「このご時世に会話はタブーだから、喋りたいことがあったらメッセージを送ってね」と事前に言っておいたが、友人はスマホを触ることもなく、ひたすら静かにプログラムを熟読していた。貸した双眼鏡を首にぶら下げていることすら忘れているような熟読っぷりだった。





 友人が宝塚を楽しめるのかが気になっていたはずなのに、ロマ劇の幕が開くと、友人のことなど気にも留めずに目の前の舞台に没頭した。人でなしの速度で友人の存在を忘れ、当時三回目のロマ劇に心の中が感涙状態だった。

 ワンシーンも見逃せないロマ劇という素晴らしい舞台の幕があっという間に下り、ロマ劇のことが好きだし月組のことがもっと好き〜、などとひとり余韻に浸っていたところで、ふと思い出した。

 そうだ。今日はひとり観劇じゃなかったんだった。

 すっかり存在を忘れていた友人の反応はどんな感じだろうかと恐る恐る右隣を窺い見た。


 右隣に座る友人を見て、驚いた。


 彼女は鼻も啜らず、瞬きもせず、目を見開いたまま静かに泣いていた。マスカラが流れ落ちていたのできれいな涙だとは言えなかったが、わたしはその友人が泣いている姿を見たのが初めてだったので、かなり動揺してしまった。

 友人はトイレにも立たずにスマホを取り出し、わたしのスマホに『感動した』とシンプルなメッセージを送ってきた。
『嗚咽を必死に我慢していて苦しい。化粧を直すのでお手洗いに行く』
 再びメッセージを送ってきた彼女は、わたしがトイレに行くかも訊かずに颯爽と席を立った。ゴーイングマイウェイの申し子である。

 女子トイレの個室通路を止まらず歩くことが分かるかどうか気になりはしたが、わたしはわたしで最高のコンディションでショーを観るために双眼鏡に曇り止めを塗ることに専念した。マスクをつけての観劇、備えあれば憂いなしである。





 友人がトイレから戻ってきたのは、ショーが始まる五分前であり、顔を綺麗にした彼女は精神でも落ち着けたいのか腿の上に手を置いては目を閉じていた。ので、わたしはそっとしておいた。好みのジェンヌさんは誰だったのかが気になったものの、開演前にグイグイ訊くような無粋なことはしたくなかった。



 そんなこんなで最高のショー 『FULLSWING!』も終わり、車に戻った。車に戻ると彼女は息をすることさえ我慢していたかのように、助手席で深呼吸をはじめた。
 何度目の深呼吸だっただろう。ふう、と大きく息を吐きだした後で、彼女は真剣な顔をして、「ハマった」と告げてきた。
 あんまりにあっさり言われたので、「え」と聞き返しつつも、邪魔になってはいけないのでアクセルを踏んで駐車場をあとにした。



 友人は言った。「あれはわたしの知らない世界だった」と。
 彼女は表情筋が固いので真顔がデフォなのだが、「胸が高鳴りすぎて心臓が痛い」と、まさしく心臓らへんをおさえていたので恐らく脈拍が上がっていたのだと思う。

「とにかく真ん中のふたりが綺麗だし、お芝居とか歌とかダンスが上手だし、男の人にしか見えなかったし、舞台がキラキラしてたし、俊藤さんみたいに心広くなりたいしけん玉上手い子いた……純粋に何もかもが格好良くて何もかもが美しかった」

 などなど、絶賛の嵐にわたしはとてもうれしくなった。新規の反応は身体にいいのである。好感触ゆえに、調子に乗ったわたしは「気になるジェンヌさんいた?」と気になっていたことを訊いてみた。

 友人は、「舞台で素敵だと思った人が違う場面では違う衣装で出てくるから、そのとき素敵だと思った人と同じ人なのかが分からない」と、難しげな顔で悩ましげに呟いていた。なるほど。そりゃそうだ。わたしは「ルサンク発売したらこの人って指差して」と言ったが、彼女はなんのこっちゃという顔でわたしの発言をスルーした。

「でも、気になった人たちが誰かは分からないけど、とにかくみんな素敵だったからみんな気になる」
 改めて、彼女は百点の回答をしてきた。

 微妙な反応をされたらどうしようと内心ビビっていたので、すぐに調子に乗るわたしは(また月組誘ってみよ〜『グレート・ギャツビー』でより一層宝塚を好きになってくれたらいいな〜)などと気軽に思っていた。


 その日のわたしは『ロマ劇/FS!』が宝塚初心者でも楽しめる舞台だったという事実が嬉しくて嬉しくて、宝塚に興味のなかった友人から貰えた「宝塚ってかっこいい……きれい……」の感想が嬉しくて嬉しくて、そのときには既に友人がヅカ沼の手前に立っていることに気づかなかったのである。








 五日後、彼女から連絡があった。『千秋楽のライブビューイング、一緒に観る?』との連絡だった。千秋楽にライブビューイングがあることを伝えていなかった私は目を点にした。
「月曜有給取ったん?」と訊いたら、イエスと返事があった。

 それどころか、彼女はスカステ加入・友の会の会員になる手続きを始めていた。更には、キャトルの通販ページを探り当てては『桜嵐記/DC』『ダルレークの恋』『川霧の橋/DC』の最高Blu-rayを購入し、それらの主題歌を覚えてしまっていた。まったく予想だにしない展開だった。


 友人は「あの日から寝ても覚めても宝塚のことしか考えられない人間になってしまい、次の日には色んなものに手を出しはじめてしまっていた」と被告人さながらに自白し始めた。
 本屋でおとめも買ったらしい。たった五日でヅカオタのフル装備を身につけた彼女はサーチカと行動力の鬼であるし、わたしは大笑いした。



 ライビュ終わりには「れいこさんのウインクってなんであんなに格好いいんだろう」とメッセージがきた。すでに愛称までバッチリらしく、充実のヅカオタライフ満喫中である。(ちなみにコンプリートしたくなったようで、月組生全員のスチールを買っていて、ファイルがとんでもなく豪華な仕様になっていた)

 あと、彼女が気になっていたのは蓮さんとおはねちゃんだったらしく(恐らく美しい声が好き)ふたりとも千秋楽を休演していて長年のヅカオタみたいに心配していた。(余談だが、東京で蓮さんが復帰したとき、クールだったはずの友人がケーキを買ってきたのがうれしかったし面白かった)







 次の別箱のチケットの話になると、
「心置きなく観劇に行こうと思うから、チケットはなるべく自分でも手に入れるようにするし、友の会はなかなか友達にならないことも予習できている」
 彼女は格好良くそう告げてきた。

 わたしは友人があっという間にヅカオタとしてひとり立ちしてしまったことを寂しく思いつつも、仲間が出来たことがとてもうれしかった。


 そして彼女は、なかなかの難易度であっただろうに、『Rain on Neptune』の貸切公演を夢組で。『ブエノスアイレスの風』のチケットをJCBか何かの先着でゲットしていた。恐るべし有言実行女である。


 ちなみに彼女の贔屓は今のところ、れこうみちなありおだの五人と、蓮さん、おはねちゃん、組長(光月るうさん)らしい。
 どうしても真ん中を見てしまうクセがあるらしく、次は端も見つつ、好きな下級生を見つけたいと言っていたので、(ロマ劇新公の配信が残業で観れなかったことを切腹する勢いで恥じていた)恐らく『レイネプ』か『ブエノス』で見つけるんだと思う。

 だけど、れこうみちなありおだが贔屓なら、やっぱり真ん中を見ちゃうんじゃないだろうかとわたしは心配しているのだけれど、そんな彼女が下級生の誰に落ちるのかが楽しみである。また、「ロマンス劇場とフルスウィングのBlu-rayが早く欲しい。著作権の壁は分厚い」と毎日メッセージしてくる。クールだった友人は、今や立派な心熱きヅカオタである。


 こんなふうに、友人は坂を転がる石のように、あっという間に宝塚を好きになった。





 この先も友人のように、宝塚を好きな人が増えて、100年以上続く宝塚歌劇団がより一層たくさんの人に愛されてほしいなと思いました。また、『ロマ劇/FS!』は宝塚初心者たちを招らせるベスト公演だったと改めて思いました。円盤発売日が楽しみです!




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